本に包囲された日々
部屋は本まみれ。家業の経理をこなしつつ、本を読む。
天人唐草
また山岸凉子。

自分はメンタル面で山岸漫画にかなり心酔していることを、このブログを始めてあらためて自覚した。

表題作はそういう精神面での衝撃を与えられた最初の作品。自分だけじゃなくて、この作品に戦慄した人はかなりいるはずだ。雑誌に発表されたときは確か新年号だったはずで、おめでたい新年号にこんな内容…ビックリするっちゅーの

髪を金髪に染め(時代は1970年代後半の日本です。念のため)、場違いなレースのロングドレスを着た女が「きえーーーーーっ」と奇声(“ぎ”じゃなくて“き”というところがコワイ)をはりあげながら羽田空港をうろつくシーンで作品は始まる。「岡村響子・30歳」とト書きが入り、彼女の生い立ちが語られる。


天人唐草主人公・響子は、厳格で保守的な父親から、控え目でおとなしい女性となるような古風で厳しいしつけを受け育つ。兄弟もおらず、母親は亭主関白な夫にひたすら仕えるだけの存在。表題の「天人唐草」は雑草“イヌフグリ”の別称。幼い響子が無邪気に「イヌフグリってなあに?」と親に尋ね、父親は激昂して「女の子がそんな言葉を口にだすんじゃない!」と怒鳴られる。「性に関することは時代遅れなくらいに厳しかった」

父親から提示される女性像=おとなしく、しとやかに、自分を主張せず…。父を煙ったく思いつつも、一方で誇らしい理想の男性像として育った響子は、成長の過程でさまざまな軋轢に苦しむ。極度に失敗と異性を恐れる響子は、クラスの隣の席の男子から教科書を見せてもらうことすら激しく悩み、苦悩するような自意識過剰な人間になってゆく。

親のシツケも多分に影響しているものの、結局響子自身の弱さ・脆さ、さらにそこからの逃避が彼女自身を追い詰めている、という描き方になっており、作者の突き放した主人公の描き方が冷徹。

響子が「目の前の小さな障害を越えられる」チャンスはいくつかあり、職場の男性からそれをもたらされる重要な場面がある。

「あんた、みえっぱりだね」

職場で上手くたちまわれず泣いていた響子に同僚の男性が言う。
思ってもみなかったことを言われ、号泣する響子に彼は教え諭す。

「うまくやれないってことがなんでそんなに大変なことなんだい?」
「『なんでもうまくやれるすばらしい女だ!』とあんたいわれたいんだよね だれかに…」
「『だれかにそう見てもらいたい』それが“みえ”なんだよ」
「他人の目を…他人の評価を気にし過ぎるんだよ」


しかし、その「彼女にとっての大事な一瞬」は、父親がからんだ不幸なタイミングと、彼女自身の甘さから立ち消えてしまう。

すっかり自信をなくし、また母親の死によって、仕事も辞め引きこもることになる響子。「人と接しなくてもよい」生活にホッとする彼女だが、そこへ突然の父の訃報。つづいて父親の想像もしなかった秘密を知らされる。あれほど自分にこうあってはならない、と教え続けた「だらしのない・はしたない」女を父親は愛人としており、しかもその関係は母の生前から続いていた。父が男として求めた女はその教えとはぜんぜん正反対だった…では響子の女としての姿はどこにあるのだろうか…。

さらに、打ちひしがれた響子を襲う、致命的な落とし穴…。

で、最初のシーンに戻って、
「彼女はようやく解放された。“狂気”というオリの中で」

おしまい。一条ゆかりが描くような、単にドラマチックな演出のための発狂ではなくて、主人公が親との関係・自らの問題に立ち向わずに逃避してしまったり、打たれ弱かったり、その他いろいろな積み重ねでそこまで追い詰められてしまう、というのが丹念に描かれ、当たり前だが、人間誰しも何かしら問題を抱えているわけなのだから、多かれ少なかれ身に覚えのある嫌な衝撃を受けてしまう。

山岸漫画でのちに繰り返し描かれる、自分の欲するところが何であるかをみつめ、それから逃げずに努力することを怠った人間は、救いようのない奈落に落ちてゆく、というテーマ。それをはっきり打ち出した最初の作品かな?

★★★
冷蔵庫の冷凍コーナーの引き出しの下に氷がたまって、引き出しがきちんと閉まらなくなってしまった。ドライバーで氷をカチ割って掃除。最初に引き出しが閉まらなかったきっかけは、年末の食料詰め込みすぎのせいだろうな、やっぱり。入れた本人も忘れているようなカチカチの物体、捨ててやりたい。「きぇーーーーっ!」(←発狂ではなく激昂の叫びです)


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コメント
この記事へのコメント
た、たしかに‥‥
新年号に、この話は、ス、スゴイ‥‥ですね。
2006/01/22 (日) 00:04:53 | URL | まめぞー #EcuZKmTg[ 編集]
きえーーー!
↑ 読んだら最後、この叫びが忘れられません。
2006/01/22 (日) 11:40:03 | URL | ヨモヤマ #iDwuzokA[ 編集]
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