本に包囲された日々
部屋は本まみれ。家業の経理をこなしつつ、本を読む。
怪しいPTSD―偽りの記憶事件(矢幡洋)
怪しいPTSD―偽りの記憶事件 (中公文庫)怪しいPTSD―偽りの記憶事件 (中公文庫)
(2010/01)
矢幡 洋

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善良な老父母が、大人になった娘からある日突然、「幼少時、両親によって悪魔崇拝儀式に参加させられ、性的虐待を受けていた」という理由で訴えられる。

1990年代の米国で、こんな突拍子も無い訴訟が多い時に年に数百件もおこされ、娘の告発のみを根拠として何の罪も無い老父母たちが有罪とされ、刑務所送りにされていた。心身の不調でカウンセリングを受けた女性たちが、「記憶回復療法」により封印されていた記憶(実はカウンセラーによって誘導された偽りの記憶)が蘇ったと主張し、次々と自分たちの親を訴えだしたのだ。

「記憶回復療法」隆盛のきっかけとなったのは、ジュディス・ハーマンの著書「心的外傷と回復」。日本でも感動の書籍、メンタルヘルスの基本図書として人気が高いらしい。米国でも当初神格化されたほどの書籍だったが、現在では札付きの悪書として扱われている。

ハーマンと「記憶回復療法」の隆盛、それによる悲劇、冷静で勇敢な批判者たちによりその理論の凶悪さが暴かれ、論破され、葬られるまで。本書の前半はそういう推理小説のようなノンフィクションの面白さに満ちている。なぜ上記のような、んなアホなと思うような告訴理由が出来あがってゆくのか、読んでいくと納得。

後半は、現代日本の(一部の)精神分析療法に、ハーマンの理論がまだ生きていることを警告している。米国(特に敬虔なキリスト教徒)と日本との違いは、告発の対象が主に母親へ向かうこと。「親のせいで私はこんなに不幸になった」と自称アダルトチルドレンたちが大量に出現したのは日本でも1990年代だった。

90年代以降に先進国社会に共通して蔓延した巨大な感情は「自分自身の人生からの責任放棄」というものであった。そして、その根拠を与えたのは「幼児期の出来事によって人間はその後もずっと支配される」とする精神分析学の教義であった。

最終章と「おわりに」に述べられる、初期の親子関係のみが人間の発達の決定因ではない、人はいつでも自分の力で成長できるのだ、という事例とメッセージ。よいしめくくり。

★★★
暴風雨がうるさくて夜中に何度も目が覚める。どーせ眠れないなら、と読み始め、面白さで止まらなかった。

「心の問題」に過剰に注目しすぎて、「社会問題」などそれ以外の問題を軽視する傾向を生んでいないか、とか。「子どもたちの心のケア」って最近すぐ言われるけど、もっと優先しなきゃならない問題があるんじゃないの。
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コメント
この記事へのコメント
お久しぶりです
人のせいにしているうちは回復できないと思います。

親もその親の影響を受けているわけですし・・・
2011/11/05 (土) 21:33:49 | URL | らん子 #v9aI.q/w[ 編集]
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