本に包囲された日々
部屋は本まみれ。家業の経理をこなしつつ、本を読む。
王妃たちの最期の日々(上巻)

君主または君主の配偶者たち20人の文字通り「最期の日々」を中心とした評伝集。

アンヌ・ドートリッシュ(ルイ十四世の母)は王の母として絶対的な身分を得ていたものの、乳癌で「砒素を成分とする薬剤を使って病巣を壊死させ、その後に剃刀で一片ずつ組織を切り取」るという恐るべき“治療”を衆人環視の中で施された…とか、身分が高いのがあきらかに災いしている。

カトリーヌ・ド・メディシスの項で、母カトリーヌより先に死ななかった二人の子どものうち、
「美しいマルゴは母親からなおざりにされた」
(臨終時に)「王(アンリ三世)を唯一の相続人に指定したが、娘のマルゴには一言の言及もなければ、何もなかった」

とあるのを読んで、萩尾望都が「王妃マルゴ」を描いている理由の一つがこれかと思った。

下巻も併せて購入。
マリー・アントワネットの嘘(惣領 冬実、塚田 有那)
コミック「マリー・アントワネット」の副読本。コミック化にあたっての経緯、作者のこだわり、萩尾望都との対談など盛りだくさん。

本のタイトルはというと、第一章で、マリー・アントワネットにまつわる言い伝えの「嘘」を七つ取り上げている。

例の「パンがなければお菓子を食べればいいじゃないの」セリフは嘘だという、いまさらな項目はどーでもいい。

そんなことより、ルイ16世とアントワネットに、結婚後七年間子どもができなかった真の理由に驚き!なんと2002年にフランスで発行された評伝(本邦未訳)で、歴史に埋もれていた手紙の存在により、赤裸々な事実があきらかになっていた。




従来説では

「ルイ16世は重度の包茎による不能で、医師から簡単な手術を勧められていたが、優柔不断な性格によりなかなか決断できず、業を煮やしたオーストリア皇帝ヨーゼフ2世(アントワネットの実兄)の説得により、手術を決断、ようやく正常な夫婦生活を営むことができた」

ところが新たに発見された、ヨーゼフ2世が弟に書いた手紙には、妹夫婦の性生活の様子(もちろんヨーゼフ2世は妹夫婦本人たちから直接聞いた)が具体的に書かれ、読めば「そりゃ子どもができないはずだ…」という内容。250年後にこんなことを世界中にバラされるなんて…。

ともあれ、コミックの副読本として両方読めばよりいっそう面白くなる内容だった。
今ひとたびの戦後日本映画(川本三郎)

昭和20~30年代の日本映画から、「ついこの間の戦争」の痕跡をとりあげた内容。

特に説明もなく登場する「戦争未亡人」とか「復員兵」に、映画の作り手が何を託して、観客が何を感じたのか、歴史というものの一端を感じる。

「ゴジラ」の首都破壊シーンで、逃げ惑う群集から唐突に、とある母子がクローズアップされる場面。逃げることをあきらめ死を覚悟した母親が子どもを抱きしめながら「もうじき、お父様のそばに行くのよ」と語りかける。ここにも戦争未亡人が。

ノスタルジーと言ってしまえばそれまでだが、いつ読んでも味わい深い文章。とりあげられた映画を観てなくても問題なく読める(観ればもっといいんだろうけど)。

ハードカバーを本棚の奥からひっぱりだして再読。
二度、文庫化されているが現在どちらも品切れっぽい。
奴隷のしつけ方(マルクス・シドニウス・ファルクス)
帝政ローマ時代の貴族、マルクス・シドニウス・ファルクスが綴った、ハウツー物「これであなたも一人前の主人!」
…という体裁の、現代人ケンブリッジ大教授による書。当時の文献から奴隷に関する記録をパッチワークし、架空の人物に託して語らせるというもの。当時の奴隷がどういう存在であったのか、表紙を描いているヤマザキマリの「テルマエ・ロマエ」「プリニウス」を事前に読んでいればよりわかりやすいかも。

精神は所有していないが、身体は所有している対等ではない相手をどうマネージメントするか。コストのかかる奴隷(標準的な奴隷だとかなり高価)を大事にしつつ、でも甘やかすと付け上がるのでそこは厳しく…。現代のビジネス教養として雇用側・被雇用側どちら視点でも読めるし、単に歴史書としても面白い。

★★★
これも図書館で借りたので、必死になって読む。壁にもたれた体育座りのポーズで読んでいたら、腰痛になった…。
柿渋(ものと人間の文化史)(今井敬潤)
柿渋とは、未熟な渋柿を潰し、圧搾して得た液を発酵させて造られた褐色の液体。防水・防腐効果を持つため、古くから木製品・和紙への塗布や麻・木綿などの染色に利用されてきた。また醸造用袋、漁具、養蚕用具などの生産用具、建築物の塗料としても用いられた。戦後、化学繊維や科学塗料の普及で利用は激減し、化粧品や食品添加物、工芸品などへの新たな利用方法の開発が進められている…。

近年やたらと加齢臭対策でうたわれている柿渋石鹸から、ふと興味をもってこの本を読んでみた。近世以降の文献、実地の聞き取り調査などで、柿渋がいかに生活に根ざしたものであったのかがわかる。ただし、消臭効果についての記述は無い。

本文で、60代くらいの人(この本の発行は12年前だから現在70代くらい)になると、柿渋のことを知らない、と書かれていた。現在80代の義父母は柿渋がポピュラーに使用されていた記憶がある。このへんが分かれ目みたいだ。

★★★
この「ものと人間の文化史」叢書は興味あるテーマが多いのだけれど、値段がちと高いので、主に図書館で借りて読んでいる。
「昔はよかった」病(パオロ・マッツァリーノ)

「もっとも捏造されやすいのは庶民史(庶民文化史)なんです。戦争など大きな歴史は研究者も多いので細かく検証されますが、庶民史については年長者のいいかげんな証言が、検証されることなく広まってしまいがちです」

資料をたんねんに辿って、「いいかげんな証言」「捏造・改竄された個人の記憶」がいかに美化されて間違っているのかをツッコみまくる書。とどのつまり、昔の社会もむかしの人間も、今にくらべて特に立派でも良くもなかった、と。

拍子木を打ち鳴らして「火の用心」したって防犯率を高める効果はなく、当番に駆り出され安眠を妨げられ喧しいだけ。特殊な金融詐欺が増えただけで現在の詐欺被害件数は減っている。健康飲料だったコーラ。少年による凶悪犯罪がもっとも多かった昭和30年代→凶悪高齢犯罪者(昭和30年代に少年だった)が増えている現代。女性採用条件に「美人求む」と堂々と記載。「安心・安全」が不安を生み出す。明治時代から熱中症で大人も子供も倒れまくっていた。江戸の町は人口の流入・転出が非常に激しく、人情どころか人々の付き合いも浅かった。地域の「絆」や「ふれあい」が深かった時代のほうが犯罪率は高かった。

ポンポンとツッコミが入り、あっという間に読めた。巻末参考文献一覧も充実。「なんとなくそう思ってた」という思い込みがひっくり返される楽しさがある。

★★★
10代から慣れ親しんできたヲタ・カルチャー関連も、30~40年も経ってまうと記憶の改竄とかいろいろあるもんなぁ。アニメ・ヲタ第一世代とかいろいろやらかしているし。
生理用品の社会史(田中ひかる)

布ナプキン界隈の記述を立ち読みして、マトモな内容であることを確認してから購入。(←偉そうに)

口にするのもはばかられていた暗く長い女性生理史からスタート。忌まわしい現象として生理中の女性が小屋に隔離された記録。そんな暗黒の時代から、市場としてすら見られていなかった生理用品を開発した「アンネ」創業者たちの功績が詳しく面白い。潜在的需要が爆発して大ヒット商品に。この成功があって日本は世界一の生理用品先進国となることができた。

自分は「アンネナプキン」はすでに過去の商品となっていった時代からの使用スタートだったが、それでも年々進化する生理用品の機能には感激していた。そんな便利な専用の商品など存在せず、忌まわしいものとして脱脂綿やボロ布でこそこそと処理するしかなかった時代の証言を読むにつれ、その技術の進歩、「月経感の肯定的変化」が普及した時代に育ってよかった…と心底思う。

で、確認した布ナプキン記述だが、使用者の意識・体調によって使用感に違いはあるだろう、という数ある生理用品の一種類としての冷静な位置づけ。非常にマトモ。布ナプキンは子宮系の病気が治る!生理が軽くなる!などとホンマカイナ的なヨイショ風潮があって、返す刀で他の生理用品を子宮内膜症の原因のようにけなす言説も流布しているので、こういうマトモな言説こそ広まってほしい。

生理用品もそうだが、現在流通している便利・人気のある商品(農作物・加工食品とか)を、根拠不明の“自然”“昔はよかった”“昔はこうだった”的な謎論理で貶めようとする風潮がいろいろ気になっていた。あまりにも普及してその便利さ・快適さが当たり前になってしまったために、それが無かった時代の苦労や苦しみが忘れられてしまって軽んじられている。

こういうマトモな本で根拠のある歴史を学びたい。

★★★
無いのが一番楽なんだけどね。無いのが。薬で数年止めていてその快適さに大満足なのだが、「もう今年は50だし、そろそろ終わってくれるかな?」と自己判断で薬を減らしてみたら、てきめん来やがった。「あーこの感覚、この体調。あーやだやだ」懐かしの不快さでしたわ。年間数万円自己負担のかかる薬なんで早く終わってほしい。
俺の日本史(小谷野敦)

古代~幕末の日本史概説。なぜこのタイトルになったのかが「はじめに」の末尾に書いてあってのっけからニヤついた。

史実の取捨選択、小説・映画・大河ドラマとの関連、さりげなく挟み込まれる魅力的な逸話…相変わらずの小谷野節が楽しめる。

家康の長男に嫁いだ徳姫のくだりで「歴史においては、有名な事件に関わったあと、あまり知られずに長生きしている人が時々いて油断がならない」とか、千姫のご乱行伝説について「こういう伝説も、知っておいたほうがいい。嘘だと分かっても知っているのが文化である」とかいう箇所にはシビレた。

★★★
FC2は不具合あってもいつまでも直らない。まぁ、今はそれどころじゃないんだろうが。
王妃オリュンピアス―アレクサンドロス大王の母(森谷公俊)
王妃オリュンピアス―アレクサンドロス大王の母 (ちくま新書)王妃オリュンピアス―アレクサンドロス大王の母 (ちくま新書)
(1998/02)
森谷 公俊

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岩明均の「ヒストリエ」が面白そうなので読みたいのは山々なのだけど、大長編になるのは間違いなく、加えて「面白いけどなかなか物語が進まない」そうなので、手を出しかねている。

んで、予習的にこの本を読んだ。

自分には知識が無い時代なので、人名を追うのにちょっと力が入ったが、それでも興味深く読み終えることができた。平たく言うと面白えぇええー!(最近こればっか)。

表題に「王妃」とあるが、当時の概念では王の複数の妻たちに序列は無い。王位相続も序列は無い。したがって安定した後継者を定められず王が死去すると、たちまち血で血を洗う権力闘争が始まる。一次資料が極端に限られるこの時代ながら、著者の丁寧な資料解読によるロジカルな筆致で、オリュンピアスや他の妻たちの文字通り命を賭けた闘いのすさまじさがリアルに迫ってくる。

王家に属する女性たちは、王位継承の争いに巻き込まれずにいることはできない。負ければ悲惨な運命が待っている。しかし彼女たちはただ座して運命を受け入れたわけではなく、自分で運命を打開し、勝利への可能性に掛け、死力を尽くして闘った。たとえ敗北に終わろうともその闘いの軌跡は歴史に残る。

ここまで意識して「女性の歴史」という観点から書かれているとは思わなかった。

★★★
女子校だったせいか、図書室には「女性の歴史」シリーズが何種類も並んでいた。当時もそれなりに読んでいたけど、今読むともっと違う視点から読めるだろうなー。
昭和の結婚(小泉和子・編)
昭和の結婚 (らんぷの本)昭和の結婚 (らんぷの本)
(2014/12/01)
小泉 和子

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結婚が「家」と「家」とのものだった時代の、男女共に自由はなかった主に昭和戦前の結婚を描いた書。

図版多数。このシリーズは、古写真好きにはタマラん。

それにしても婦人雑誌で啓蒙される「花嫁の心得集」が悲惨。戦前は、「凱旋なき出征と心得よ」「まず十年は耐え忍べ」「花嫁は涙を何石流さねばならぬ」…。戦後になって「楽しい家庭を」という風潮になってさえ、朝から晩までで陰に日向に良人に気を配り支え続けるようにとの、クドいアドバイスの数々。そんなことやってられっか、ボケ。読む分にはレトロな味わいがあるけどさ。

他人と家とがいやおう無く関わりをもつことになる結婚というものが、面倒で大変な面があるのは仕方がないことで、してみると、自由に結婚が選べる現代に結婚する人が減るというのは、これもまた仕方が無い時代の流れかと思った。

★★★
昨夜は自治会内の班の忘年会。ウチの班は入り婿の家があちこちあって、そのうちの一軒のダンナさんと隣の席になっていろいろ話を聞いた。もう孫もいる年なのに、「家」に関することは何ひとつ自分の思い通りにできないそうな。母親・娘(自分の妻)のいう「しきたり」「家」「土地」への考えに介入することはできない。自分は「家」と結婚したんじゃないと思っているから、妻とはそれが永遠にわかりあえない、ともう、あきらめというか絶望の心境だと。

男女逆になっているだけで、「家」を背負った「あととり」の重みは凄いものらしい。不動産の無い家に生まれ育って、新しい分家に嫁いだ自分には想像もできない重さなのだろう。
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